天才と天災

オシム氏にユース以下の指導要請へ

日刊スポーツ

 脳こうそくで倒れ、リハビリ中の日本代表前監督のイビチャ・オシム氏(66)に、日本協会がユースから下の世代の責任者への就任を要請することが24日、分かった。同協会の川淵三郎キャプテン(71)は「倒れてから、ある程度回復した段階でオシムが『子供の指導をしたい』と話をしていたので、その気持ちが今も変わらなければ、文句なしにお願いしたい」と明かした。今週中にオシム氏に会って、直接打診する。

 現在、オシム氏は都内の病院でリハビリに専念しており、Jリーグやナビスコ杯も視察できるまで回復した。主治医に勧められダイエットにも励み、体重を約20キロ落とし、100キロを切ったという。近日中には退院する予定で、退院後も「日本にとどまってリハビリを続けたい」との意向を日本協会に伝えている。

 オシム氏の日本残留の意向を伝え聞いた川淵キャプテンは「どういうことが可能かを聞いた上で、新たな契約を結びたい。『日本サッカーに貢献したい』という気持ちもあるようだし新しい役職をつくってもいい」。オシム氏の意向次第だが、ユース以下を統括するGMもしくは総監督に就任する可能性もある。

2008年3月25日 08時59分 日刊スポーツ




イタリア代表マネジャー「カッサーノデルピエロにもチャンスはある」

 イタリア代表のチームマネージャーであるジジ・リーバは、デルピエロカッサーノに対して扉を閉ざしてはいない。ロベルト・ドナドーニ監督に見放されている2人の天才の状況は、まもなく変わることになるかもしれないと示唆した。
「本大会のメンバー招集まで残り2カ月という段階で、すでに選手を選び終わったとは考えていない。現時点では今回のようなメンバーが招集されているが、カッサーノデルピエロも、またそのほかの選手たちにもチャンスはあるだろう。もちろん彼らの活躍次第だ」

 所属クラブでの活躍が招集につながるかもしれない。ライバルとなる選手たち以上のプレーを見せることができれば、ユーロ(欧州選手権)2008本大会が行われるスイスとオーストリアに向かう23名のメンバーに入ることができる可能性はある。

 リーバはロベルト・ドナドーニ監督の契約状況に関してもこう語った。
「重要なのは、彼と(イタリアサッカー協会の)アベーテ会長が話をし、ある種の合意に達したということだ。それがどういったものかは分からないが、合意があればそれでいい。いずれにしても、ドナドーニは真面目な人間であり、いつも通りプロ意識を持って任務をこなしていくだろう」

(C)SPORT

[ スポーツナビ 2008年3月25日 11:53 ]


アルゼンチンを覆う暴力の闇

2008年03月25日
フットボールをめぐって再び死者が……

スタジアムに情熱が溢れるアルゼンチンサッカー界。だが、その周囲は暴力の闇に覆われている スタジアムに情熱が溢れるアルゼンチンサッカー界。だが、その周囲は暴力の闇に覆われている【 Photo:AFLO 】
 ここ10日ほどの間に、アルゼンチンのフットボール界では少なくとも2人の死者が出た。1人は、ベレス・サルスフィエルドのファンだった21歳の青年。もう1人は、彼ほどはメディアなどで報じられていないが、アルゼンチン北部のあるスタジアムの近くに住む少女だった。そして、また別の青年は西部で暴力ざたに巻き込まれ、いまだ重体で病院にいる。

 フットボール好きの大部分のアルゼンチン人にとって、こうした出来事は決して珍しくはないが、耐え難いものである。むしろあまりに頻発するために、こうした暴力に“慣れて”しまっていると言えるかもしれない。“バラス・ブラーバス”と呼ばれる一部の凶暴なサポーターによる事件も一向になくなる気配がない。

 そして3月15日、ついに起こるべくして、ここ数年で最大の喪失と言える出来事が発生した。ベレス・サルスフィエルドのファンだったエマヌエル・アルバレスが銃弾に倒れ、帰らぬ人となったのだ。ベレスのサポーターはその日、約40台のバスを連ね、サン・ロレンソ戦が行われるアウエーの試合会場へと向かっていた。アルバレスも仲間とともにバスに乗っており、そこで何者かが発砲した銃弾を受けたのだった。

 幼いサブリナという少女の死については、ヒムナシアとティロの中間に位置するサルタという北部の町が舞台となった。フットボールに少女が巻き込まれるという、困惑せざるを得ないエピソードである。彼女は地元チームのファングループと一緒にスタジアムに向かっている途中、通りを渡っている時に銃で撃たれたのだった。そこには、ライバルチームのファンがうろついていたという。

 アルバレスの事件を知らされたAFA(アルゼンチンサッカー協会)は、その日の試合を中止せず、予定通りに行うことを指示したという。しかし、サン・ロレンソベレス・サルスフィエルドは結局中止となった。アルゼンチン後期リーグではその日、ヒムナシア・フフイの試合も「安全を保証できない」という理由で延期されていた。それでも、AFAの幹部たちは試合を続行しようとしたのだ。最終的に中止となったのは、現場の人々の死者へのリスペクトの気持ちと、熟考の上の決断によるものである。

 アルバレスの訃報を知り、衝撃にうちひしがれたベレス・サルスフィエルドのサポーターたちは、キックオフを直前にして、試合の延期を訴え掛けた。すでにピッチに姿を現していた選手たちに、仲間が殺されたことを叫びながら伝えたのだ。何人かはスタジアムのフェンスを破壊し、ピッチになだれ込もうとしていた。ベレスの選手はすぐさまサポーターたちに近づき、フェンス越しに冷静になるよう呼び掛けると、スタジアムの外で何が起きたのかを理解した。キャプテンのぺジェラーノは国際主審のエクトル・バルダッシに試合延期を要請し、主審も事実を確認した後、延期を決定した。ライバルのサン・ロレンソの選手たちにも異存はなかった。AFAの首脳陣たちの対応とは雲泥の差である。

■増える暴力、策を講じないAFA

 しかし、フットボールの暴力にまつわる物語はこれで終わらない。アルゼンチンの強豪、ボカ・ジュニアーズの“バラス・ブラーバス”は、いくつかのサポーター集団同士が激しく対立している。そして時には、ほかのファンに銃を向けるという深刻な事態にまで発展しているのだ。

 ブエノスアイレス市は今後、ボカ・ジュニアーズの認可を取り消す可能性があることを示唆した。サポーター集団の対立はもはや、スポーツの範ちゅうを超えているという判断である。とはいえ、現在のところはサポーターの暴力ざたによって、クラブを罰することはしないと表明している。ブエノスアイレスの市長であるマウリシオ・マクリはボカの会長でもあるため(司法上は、クラブは会長選挙を行う必要がある)、状況が複雑になっているのだ。

 はっきりしているのは、アルゼンチンのフットボール界では、年を追うごとに暴力行為が増えているということだ。そして言うまでもなく、その根底には社会を覆う暴力という闇が横たわっている。国全体が困難な状況に陥っており、それがフットボールという人々の娯楽に顕著に現れていると言えるかもしれない。
 しかし、それとAFAの怠慢とは別の問題だ。今回、アルバレスの訃報を耳にしても試合続行を指示したAFAは、これまでもスタジアムをめぐる暴力から目を背け、何ら具体的な対応策を講じてこなかった。

 イタリアやフランスなどでは、1人のサポーターが亡くなっただけでも、事件が大きなスキャンダルとして取り上げられている。その日の試合のみならず、長期にわたって試合が中止、あるいは延期されることも珍しくない。
 3月19日に行われたラツィオとローマのダービーでは、両チームのキャプテンを務めるトマーゾ・ロッキとフランチェスコ・トッティが、昨年11月に命を落としたラツィオサポーターの青年、ガブリエーレ・サンドリの家族とともにピッチに登場した。トッティは同じローマを本拠地とするローマの主将として、葬儀にもスパレッティ監督とともに参列していた。もちろん、試合になればトッティはローマのために戦うが、フットボールはそれだけではない。

 アルゼンチンでは、フットボールが公式に行われるようになって以来、合計で225人の命が奪われたという。ここ10年の間に、スタジアムの内外で50人もの死者が出ているという報告もある。それでも、この問題について真剣に議論がかわされたこともなければ、協会トップからは問題解決への意欲も希望も感じられない。試合はますます脅かされているというのに……。

<了>

セルヒオ・レビンスキー/Sergio Levinsky
1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして、マドリーの日刊紙『エル・ムンド』やバルセロナのサッカー週刊誌『ドン・バロン』、『FIFAマガジン』、日本の『Number』や『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿している。携帯版スポーツナビでも連載中