閑話休題

カズ40歳が導いた昇格への道/J2 (日刊スポーツ)
<J2:横浜FC1−0鳥栖>◇第51節◇26日◇鳥栖

 カズの魂が、横浜FCをJ1に導いた。昇格目指して首位を走る横浜FCは、アウエーの鳥栖戦に1−0と勝利。2時間後に始まった試合で2位神戸が引き分け、3位柏が敗れたため、1試合を残して優勝と昇格を決めた。昨季途中に加入したカズ(39=三浦知良)は、今季監督補佐を務めるとともに、38試合に出場してチームをけん引。来年2月に40歳になるキングが新しい伝説をつくり、J1のピッチに戻ってくる。

 悲願成就は、バスの中で聞いた。鳥栖スタジアムから福岡空港に向かう途中、選手たちは携帯電話で神戸と柏の試合をチェック。柏が敗れた瞬間に2位以内が決まり、神戸が湘南に追いつかれて優勝も決まった。いつもの最後部左側の席のカズも、約300人のサポーターが待つ福岡空港に到着すると、バスの中で立ち上がり、城らと踊った。

 「うれしいよ。目指していたからね。優勝はおまけだけど、これでまた1つ、勲章が増えたね」。笑顔で話した。この日も城とのコンビで先発。FKからチャンスをつくり、左サイドを崩した。相手ボールでは激しく動き回り、安定した守備を最前線から支えた。後半23分にアレモンと交代したが、そのアレモンのゴールで勝利が決まると、飛び出して歓喜の輪に加わった。

 「去年、来た時のことを思い出した」と話した。昨年7月、4年半いた神戸を離れ、横浜に来た。サッカー人生初の2部。「自分が求められるところで、サッカーがしたい」という単純な理由で、専用練習場もないクラブに移籍した。使命は「J1昇格」。昨年は結局11位に終わり、今季は監督補佐に就任。「オレにできるのはサッカーだけ」と話すが、カズの存在がチームを戦う集団に変えた。

 練習は毎日一番乗り。前日25日は朝8時からの練習だったが、開門の7時前に来て待っていた。1年で、練習を休んだのは1日だけ。毎日、先頭に立って走り、汗をかいた。若い選手が刺激を受けないはずはない。37歳のMF山口やDF小村さえ「カズさんがやるんだから」。手は抜けない。

 節制して、すべてをサッカーにささげる。食事は徹底して油分を避ける。バターも塗らず、鶏肉はササミだけ。糖分も大好物のおはぎぐらいだ。外食の時は、1品ずつトレーナーやコーチに電話し、食べていいかどうかを確認する。体脂肪率は10%をキープ。前日、ニンニク注射を打った平石貴久医師(平石クリニック医院長)は「多くのスポーツの選手を知っているけれど、カズの筋肉はすごい。弾力性に富んでいるし、39歳とは思えない」と驚いた。

 昨年、東京Vと神戸が降格した。「楽しみだね」と話したかつての古巣との対決は、10年前、5年前の自分との戦いでもあった。年齢はごまかせない。髪に白いものも交じりだした。それでも「あと10年はプレーしたい」。そのために、努力は惜しまない。

 2月26日が誕生日。来年3月の開幕時は40歳で迎える。「達成感はある」と話したカズの契約は今季いっぱい。「JFLでも、地域リーグでも、プレーできればいい」と言うカズにとって重要なのは試合に出られるかどうかだが、横浜FCは再契約を結ぶ方向だ。日本サッカーを引っ張ってきた「キング・カズ」が、またJ1に戻ってくる。【荻島弘一】

2006年11月27日 08時14分 日刊スポーツ



お荷物横浜C上り詰めた…J2第51節
横浜CのJ1昇格が決まり、選手が乗ったバスの前で喜ぶサポーター
 ◆J2第51節 鳥栖0―1横浜C(26日、鳥栖) 横浜Cが創設8年目で念願のJ1“復帰”を果たした。今季開幕戦直後、コーチから電撃昇格した高木琢也監督(39)のもと、最終節を残してJ2優勝、J1昇格を達成した。1998年12月に横浜Fと横浜Mの吸収、合併騒動が勃発し、市民クラブとして設立。一時は破産危機さえ直面したクラブが、最高のクライマックスを迎えた。来季の練習場は今季まで横浜Mが使用した東戸塚のクラブハウスが内定し、スタジアムは三ツ沢と日産スタジアムを併用する見通し。来季の夢舞台は同じく高木体制で挑む。

 到着予定時間を1時間以上遅れても、羽田空港の熱気は一向に冷めなかった。奥寺康彦社長を先頭に遠征メンバーがゲートに姿を見せた瞬間、200人を超えるサポーターから盛大な拍手が沸き起こった。「この昇格が早いのか、遅いのか分からない。でもいつかチャンスが来ると思っていた」と奥寺社長。クラブ創設8年目。ようやく夢が現実となった。

 開幕戦の愛媛戦に敗れると、足達勇輔監督がJ史上初となる開幕1戦で電撃解任された。後任を打診された高木コーチは不安や迷いを抱えながらも監督に就任。「大きなチャンスなんだとポジティブに考えた」と振り返る。“アジアの大砲”と呼ばれた元日本代表FWは、守備の整備から着手し、6月には770分間、連続無失点時間というJ新記録を樹立。26日現在の32失点は、昨季(64失点)の半分。今季一度も連敗しなかった。この日もFWアレモンの右足ループシュートの1点を守って完封勝利。最後まで堅守を見せつけた。

 強さの裏には確実なクラブの成長がある。クラブ創設4季目、02年3月に就任した坂本壽夫副社長は当時のずさんな経営に頭を抱えた。それまでの1年分の帳簿すらなく、経営状態が全く分からない。横浜Fの復活を願うサポーターの熱い思いで船出したクラブも、経営は素人だった。経費削減を推し進め、約3億円だった売り上げは昨季6億円を超え、今季は12億円に迫る勢いだ。「以前は夜中に目が覚める日々の連続だった。小さなクラブだけど売り上げが1年で2倍近くになる例はないと思う」と坂本副社長は目を細める。

 予算の大幅な増加により、05年はFW三浦知良(神戸)、MF山口素弘(新潟)らを補強。今季は初めてシーズン後半に向けた強化費を用意し、シーズン途中でFWアレモン(京都)、DF小村徳男(広島)、MF崔成勇水原三星)らを加入させた。“横浜C再生工場”が、結果につながった。すでに高木監督には来季の続投を要請。来季は夢の舞台で大暴れする。



(2006年11月27日06時05分 スポーツ報知)