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根が深いフェイエノールトの低迷
06.12.08[海外通信員]
 フェイエノールトが、混乱している。オランダリーグは12月3日に第15節が行われた。フェイエノールトはホーム、デカイプにヘーレンフェーンを迎えて、4―3で勝利。なんとか勝ち点3を得ることに成功した。だが、その内容は決して褒められたものではない。むしろ、混乱するチームを象徴するかのような試合展開だった。

 前半24分に今季リーグ得点数トップのアフォンソ・アルベスに先制ゴールを決められるも、フェイエノールトは後半19分までに、ハイセヘムスの2ゴール、ルシウスのPKで3―1とリードを奪う。この時点でスタジアムには楽勝ムードすら漂った。優勝争いをしようというチームなら当然、試合のすう勢を決しておかなければいけないスコアだ。ただ、今年のフェイエノールトはこのままでは終わらない。29分、34分と、立て続けに失点して、あれよあれよという間に同点に。最後は相手の不用意なミスから、デ・グズマンの決勝弾が飛び出して辛くも勝ちはしたが、エキサイティングでもなんでもない、ただとっ散らかっていただけの試合だった。

 15節を終えて、フェイエノールトは9勝2分け4敗、勝ち点29で5位。そして、得失点はなんと得点30失点29と惨たんたるもの。ちなみに首位のPSVは得点41失点6、2位AZが得点48失点14。比べるべくもないが、フェイエノールトの得失点は優勝争いに食い込めるようなチームのそれではない。5位にいるのが不思議なくらいなのだ。

 ここまでの混乱は想像以上であったとしても、フェイエノールトの低迷は予想されたことではあった。オフには、カイト、カルーの看板FWがそろってプレミアリーグに移籍。以前から失点数の多さをリーグ屈指の破壊力でカバーしていただけに、得点力ある二人を失うことが、リーグの成績に直結することは分かりきっていたことだった。しかも彼らの代わりにフロントが獲得したFWが、アヤックスとAZで出場機会を失っていたハリステアスとハイセヘムス。ライバルからの引き抜き、というより、おこぼれに預かるといった形で、カイト、カルーの穴を埋めるには程遠い補強でしかなかった。

 上記の補強の失敗もあって、現在、サポーターからはフェイエノールトのフロント陣に対する批判が大きくなっている。中でも、ファン・デン・ヘリック会長の退陣を要求するパフォーマンスはたびたび繰り返され、その種の弾幕は常にスタジアムに張られている。ただ、サポーターの不満もFW二人の補強に失敗したから、といった短絡的な理由からだけではない。あまりに稚拙な補強が繰り返され、無駄に金を失っていった事に対して溜まり溜まっていた不満が爆発したのだ。

 “中東のロベカル”“ファンペルシの後継者”…外国籍の最低年俸が規定されている(約3500万円)オランダにあって、ここ3、4年の間に何人の外国籍選手がチームに加入し、知らない間に消えていったことか。(そういえば、オランダで開催された05年ワールドユースで、ナイジェリアの10番を付けていたオボエリもフェイエノールトに加入したが、どこへいったのだろう)。

 それだけではない。スウェーデン代表のエルマンダーや、ポーランド代表のスモラレクといった選手たちのように、フェイエノールトがタダ同然で放出した選手が、チームを離れた途端に各国代表でも中核を成すほどに活躍している例も数知れない。

 そういった選手は代表選手だけに限らない。例えばレオナルド。昨季冬にフェイエノールトを離れ、現在NACに所属するブラジル人には、トットナムをはじめとする多数のクラブが興味を抱いている。快速ドリブラーである彼は、オランダ国籍取得間近でオランダに留まる必要があるため、冬にPSVへの移籍が濃厚と言われている。

 極めつけラゾビッチだろう。03年にフェイエノールトが約12億円も払ってパルチザン・ベオグラードから獲得したにもかかわらず、レバークーゼンパルチザンとレンタルを繰り返し、揚げ句の果てに、フィテッセに放出した。今季、ラゾビッチはフィテッセでここまで9ゴールと、上々のプレーを披露している。ちなみにフェイエノールトのチームトップスコアラーはホフスとハイセヘムスの5ゴールで、ラゾビッチに及ばない。

 むやみに選手を“乱獲”し、使いきれずにタダ同然で放出する。フェイエノールトから開放された選手が、新天地でのびのびと活躍する姿を、毎度毎度、フェイエノールトのサポーターたちは歯かみしながら見ているのだ。揚げ句、カイトがリバプールへ移籍した時に約26億円もの移籍金を得ながら、フロントは、その資金を補強に回す財政的余裕がないとコメントする始末。

 片や、ライバルのひとつであるPSVはどうか。04年、フンテラールをPSVからヘーレンフェーンへ移籍させた時、フンテラールヘーレンフェーンから移籍するときには、その一部をPSVに還元するという契約を結んでいた。結局フンテラールは約12億円という高額でアヤックスに移籍し、オランダ代表にまで上り詰めるわけだが、この12億円の一部をPSVがちゃっかりと懐に入れているというわけだ。ただ金を失うだけのフェイエノールトとは極めて対照的だ。

 フェイエノールトの低迷は少々根が深い。今回の混乱もあって、優秀な選手たちにとってフェイエノールトは魅力的な職場ではなくなってきている。成績同様、そういった意味でも、AZの後じんを拝しているといっていい。さらに補強にあまり資金を回せないことも考え合わせると、トップレベルの選手を獲得することは極めて難しくなっている。この冬にでもトップクラブ足らしめるクオリティーの高い選手の獲得が急務なのだが…。

 今季の優勝はもはやありえない。むしろこの一年で、今後につながる光明が見出せるかどうかが重要となってくる。会長の交代なのか、ペーター・ボス・テクニカルマネージャーがスーパーな選手の獲得に成功するのか、現場の踏ん張りで今季を乗り切ってチームの評価を上げて来季につなげるのか。ただ、フェイエノールトは、歴史的にロッテルダムの湾口労働者の熱狂的“過ぎる”サポーターに支えられたやんちゃなクラブ。アヤックス、PSVなどのスマートさや効率の良さとは程遠い、とっ散らかった感じこそが魅力と言えない事もないのが複雑なところだ。(ロッテルダム通信員=堀秀年)